東京高等裁判所 昭和57年(ラ)692号 決定
抗告人主張の事実関係を前提とすれば、抗告人及び相手方が事件本人を自分達の子としてした出生届は、嫡出子出生届として無効であり、また右出生届をもって養子縁組届とみなすこともできないから、抗告人及び相手方と事件本人千寿乃との間には法的な親子関係は存在しないといわざるをえず、かかる戸籍上のみの母親のなした親権者変更の申立は不適法というべきであろう。しかしながらそもそも親権の制度は子の福祉のために存在する制度であって、子の側から見るときは、保護の責を負うべき親権者が突然いなくなるということは重大な問題であり、この問題について子の利益を代表する者が当事者として関与することなく、かつ比較的簡易な非訟手続で事の結着がつけられるということは極めて不都合であるのみならず、本件の場合、相手方の親権者変更審判の申立が不適法として許されないとすれば、後述するように、少くとも事実上は抗告人よりも相手方を事件本人の監護教育に当らせる方が相当であると考えられるにかかわらず、親権者の変更が認められないため、抗告人が依然として事実上親権者の地位に留まることとなって、何の責任もない事件本人に不利益を強いることとなり、その福祉に反する結果となるから、相手方と事件本人との親子関係につきその不存在が訴で以て確定されない限り、しばらく戸籍上の記載に従い相手方において親権者変更の申立をすることが許されると解するのが相当である。
(石川 寺澤 寒竹)